ネームタグは「組織・集団への帰属」と「個人の識別」のために
ネームタグ(名札)は、学校や職場など、組織・集団の中で個人を識別するために使用されます。と同時に、その個人の組織・集団への帰属も表示しています。「帰属とアイデンティティ」の象徴としての重要性が、ネームタグにはあります。ネームタグの本質的機能は「表示」です。そしてネームタグが何を表示するのか、それは場面によって変わってきます。
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反対に「属していないこと」の表示にも
「組織・集団への帰属と個人の識別」がネームタグの第一義のはたらきですが、反対の機能を果たすこともあります。「外部の人間だが、ヴィジターとして入構を許可されている」ことを表示するケースです。
小中学校やオフィスビルで、児童や職員以外の、外部からの来客にネームタグを着けてもらうケースは多々あります。このようなケースでは、ネームタグの主目的は「防犯」となります。「招待・許可されて入構しており、不審者ではない」ことを表示しているのです。学校内に不審者が侵入し、痛ましい事件を起こすということが実際にありました。外来者にネームタグを着けてもらえば、そうした不審者との識別に役立ちます。
またそれと同時に、児童や職員に「知らない方でも、お客様なので失礼のないように」と伝えるはたらきも果たしているとも言えます。それぞれの施設で決められたネームタグを着けているということは、学校や会社がその来意を確認したうえで入構許可を得ていることを意味するからです。
このようなネームタグは、不審者の侵入や犯罪を抑止するという目的に照らして重要性を持っています。この目的を考えると、多少遠目からでも認識できるように、色や形が目立ちやすいネームタグが向いているでしょう。
「名札(めいさつ)」国会議員出席の証し
通常のネームタグはカード状で衣服のどこかにピンなどで留めて着用しますが、着用しないで机の上に置く形のものもあります。こうして机上に置くタイプは「名札」を「めいさつ」と読んで「名札・なふだ」と区別することがあります。
こうした名札は、職場や役所で役職にある人の机に置かれることがあります。役職名と氏名がヨコ書きで記されていて横置きするものが多いです。タテ書き縦置きだと倒れることもあるからでしょう。
これに対し、縦に置くことが意味を持つタイプの名札もあります。たとえば国会議員の机に置かれている名札です。黒塗りの四角柱に白い塗料で議員氏名が書かれているもので、正式には「氏名票」といいます。
氏名票はふだん横に倒して置かれています。その議員が出席すると、氏名票を立てます。氏名票が立っていることが、議員の出席を表示しているわけです。
顧客対応の職場では「責任」と「おもてなし」の証し
国会議員の氏名票は、立てられている状態では「国民の代表として責任をもって審議に出席している」という姿勢を表示します。
この氏名票と同様に、ネームタグがそれを着けた人の責任感を高めるという意味で重要性を持つこともあります。
銀行など窓口での顧客対応がある職場、あるいは飲食店、スーパー、コンビニエンスストアなどでも、従業員がネームタグを着け、少なくとも苗字を表示していることは非常にしばしば見受けられます。顧客が不特定多数であるにもかかわらず名前を表示するのは何のためかというと、それは「○○が責任をもって対応します」という誠意を示すためでしょう。「何か問題があれば、○○が責任をとります」という意味です。
ネームタグがこうした意味を表示することを考えれば、ネームタグを着ける場合と着けない場合とで、どちらが従業員の責任意識を高められるかは明らかです。
さらに、顧客サイドから見ればネームタグは「おもてなし」の気持ちを伝えるものでもあります。ネームタグを着けたスタッフは、ただの組織の一員としてではなく、名前のあるひとりの「人格」として顧客を迎えているのです。ネームタグを着けることで、おもてなしの気持ちはいっそう伝わりやすくなります。
顧客に顔と名前を覚えてもらうと、コミュニケーションを図りやすくなり、常連になってもらえるなどといったメリットがある場合もあるでしょう。
顧客対応の「質」が問われるサービス業では、ネームタグには特に多くの利点があります。
ネームタグには副作用も
顧客に安心感、信頼感を与え、スタッフには責任感を高める効果があるネームタグですが、反面、問題を起こすリスクもあります。副作用と言っていいでしょう。
それは、顧客に名前をさらすことにより、今どきのネット社会では容易に検索され個人情報までたどられてしまいかねないという問題です。そのことにより、顧客がクレーマーやストーカーになり、スタッフに危険がおよぶリスクが生じます。特に、すこし珍しい苗字の人だと簡単に特定されてしまい、具体的な被害を受けないまでも、住所を知られるだけで不安など精神的苦痛を受けることがあります。
そのため、大手のスーパーやコンビニでは基本的にネームタグの着用を義務づけているものの、実際に書き込む名前は「仮名」でもよいとしているところもあります。仮名であっても、ネット上のハンドルネームのように固定されていれば、仕事上の不都合はほとんどないようです。
ただ、金融機関のように担当者の信用性が重く受けとめられる職場となると、仮名というわけにはいかなくなります。この場合、顧客がストーカー化、あるいはモンスタークレーマー化したら、担当者を変えたり窓口業務から外したりなどといった安全対策を講じなければならないでしょう。
ネームタグで実名を不特定多数の目にさらすことにリスクがともなうことは広く認識されていますが、ネームタグを付ける必要性、あるいはそのことによるメリットもたしかにあるため、すぐに廃止することはむずかしいというのが現実のようです。使い続けざるをえないのであれば、経営者は何かあったときに従業員を守る責任を負わなければなりません。
小中学校では廃止・制限も
児童・生徒の安全を考慮してのことですが、小中学校で「名札」を廃止したり、着用を校内に限定したりといった動きもあります。登下校中に校外で名札が不特定多数の目に触れると生徒のフルネームが知られてしまい、トラブルの元になりえます。これをさけるための措置です。
こうしたリスクを考慮した名札の製品があります。2006年に発売された「裏返せる名札」です。安全ピンと名札のビニールケースの間をつなぐプラスティックのパーツが回転できるようになっており、校内と校外で、名前を書いた面を外に向けたり内側に隠したりできます。このような製品を利用すれば、生徒たちがトラブルに巻き込まれるリスクは低くできるでしょう。
それでも全体としてはメリット大
不特定多数の人に実名をさらすリスクに関連して、ネームタグのネガティブな部分に触れましたが、それでも多くの職場、学校では名札・ネームタグが使い続けられているということは、そうせざるを得ない事情があるからでしょう。言い換えれば、ネームタグを使い続けることには、リスクをおぎなってあまりあるメリットがあるのです。
接客をともなう職場では責任感の醸成と顧客との信頼関係のために、学校では主に生徒管理のために、名札は不可欠のものとなっています。
また、商品などにラベルとして付けるネームタグには、当然のことながら上記のようなリスクは考えられません。ブランドイメージや各種規格認証の表示、取り扱いの簡便な表示などをしっかりとアピールするうえで大きな効果を発揮します。
ネームタグについてトータルで考えれば、利用するメリットの方が大きいと言えるでしょう。